修繕と設備機械式駐車場の維持費と、平面化や撤去の考え方
マンションの機械式駐車場は、車を載せた台を機械で上げ下げしたり横に動かしたりして、限られた敷地に多くの車を停める設備です。定期的な点検と修理が欠かせず、年数がたつと装置ごと取り替える大きな出費が来ます。一方で、駐車場を借りる人が減って空き区画が目立つと、使用料の収入が減り、維持費をまかないにくくなります。国土交通省の指針とガイドライン、標準管理規約、令和8年4月1日施行の改正区分所有法をもとに、維持費の見込み方、会計の分け方、平面化(機械を撤去して平らな駐車場にすること)や撤去の手続きを並べます。総会に駐車場の議案が出たとき、数字と選択肢を確かめる手がかりになります。
点検はどのくらいの頻度で行うのか
国土交通省は平成30年7月に「機械式駐車設備の適切な維持管理に関する指針」を初めて作り、令和3年9月に一部を見直しました。指針の対象は路外駐車場(道路の外に設けた一般向けの駐車場)ですが、策定時の発表は、専門知識のない管理組合なども保守点検の良し悪しを確かめられるようにする狙いを示しています。 指針は、管理者が保守点検の会社と契約して定期的に点検させ、作業報告書を出させることを求めています。付属の「点検周期の目安」は、安全装置などの項目ごとに年1回、年2回、年4回、毎回(毎月か隔月)の目安を示し、実際の周期は設備の特性や置かれた環境、稼働率に合わせて決めるとしています。いまの保守契約の点検項目と周期は、この目安と見比べられます。 指針はまた、保守点検の会社が契約の範囲を超える修理や機能更新を必要と判断したときは、その理由を文書で管理者に説明するよう求めています。交換を勧められたときは、この説明が理事会の判断材料になります。部品交換と入替えの時期、修繕積立金の目安
国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」(令和6年6月改定)は、修繕周期の例として、機械式駐車場の補修を5年、取替を18〜22年としています。計画を作るときは、メーカーや保守会社の「長期保全計画」を手に入れ、設計上の耐用年数や取扱説明書とあわせて参考にするよう書いています。 「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)は、機械式駐車場の修繕費が積立金の額に大きく響くため、建物全体の目安とは別に加算する考え方をとっています。117事例の長期修繕計画から出した1台あたり月額の修繕工事費は、2段(ピット1段)昇降式で6,450円、3段(ピット2段)昇降式で5,840円、エレベーター方式(垂直循環方式)で4,645円などで、機種によって4,645円から7,210円の幅があります。屋外か屋内か、地上か地下かで個別の差が大きいことにも注意書きがあります。 この額は修繕工事費だけで、毎月の保守点検費は別にかかります。使用料がこの水準を下回るなら、使用料だけで将来の取替費用まで積み立てるのは難しい計算になります。なおガイドラインは、駐車場の修繕費を使用料収入でまかなうと決めて会計を分けている場合は、この加算をしなくてよいとしています。空き区画が増えると会計に何が起きるか
標準管理規約第29条は、駐車場使用料をその管理に要する費用にあて、残りを修繕積立金として積み立てると定めています。修繕積立金ガイドラインは、使用料からの繰入れを計画に入れるときは、実際に集めている額を超えて見込まないこと、特に駐車場使用料は稼働率で大きく変わることに注意を促しています。 空き区画が増えても、機械は空いた段も含めて一つの装置として点検し、いずれ取り替えるので、収入だけが減って支出は残ります。長期修繕計画ガイドラインのコメントは、駐車場の数が住戸数より少なく、使用料で点検や修繕の費用をまかなえないときは収支計画の見直しが必要だとしています。そのうえで、近くの駐車場より料金が高くて値上げが難しい場合や、稼働率の低下が続いて収入の改善が見込めない場合には、機械式駐車場の除却(取り除くこと)の検討も必要になると書いています。 標準管理規約のコメント(第15条関係)は、近年は駐車場の需要が減って空き区画が出ている例があるとし、修繕積立金不足への対策として、組合員以外の人に使用料を取って貸すことも考えられるとしています。外部に貸すと税金がかかる場合があり、コメントは課税の範囲についての国税庁の見解(平成24年2月)を参照するよう書いています。駐車場使用料はどの会計に入れるのか
標準管理規約(令和7年10月改正)の第29条関係コメントは、機械式駐車場があると維持と修繕に多額の費用がかかるため、使用料を管理費や修繕積立金とは区分して経理することもできるとしています。長期修繕計画ガイドラインのコメントも、二段式や多段式の機械式駐車場がある場合に、平置きの駐車場も含めて駐車場使用料会計を別に設け、駐車場だけの長期修繕計画を作って、それをもとに使用料の額を決める方法を挙げています。 会計を分けると、駐車場の費用を使用料でまかなえているかがはっきり見え、車を持たない組合員の修繕積立金が機械の取替に回ることも避けやすくなります。その反面、稼働率が下がれば駐車場会計が先に足りなくなり、値上げ、ほかの会計からの補てん、設備の縮小のどれを選ぶかを早めに迫られます。修繕積立金に入れる方式なら、余った使用料を建物全体の修繕に生かせますが、駐車場単独の収支は見えにくくなります。平面化や撤去を決めるときの総会決議
共用部分の変更の決議は、区分所有法第17条が定めています。令和8年4月1日施行の改正後の条文では、形状または効用の著しい変更を伴う共用部分の変更は、区分所有者の過半数で議決権の過半数を持つ人が出席した集会で、出席した区分所有者とその議決権の各4分の3以上の賛成で決めます(規約で2分の1を超える割合まで下げられます)。改正前の条文は、出席者ではなく区分所有者全体と議決権全体の各4分の3以上を求めていました。改正後は、議決権を使わない人の数に結果が左右されにくくなりました。 著しい変更を伴わない変更は、第18条の共用部分の管理として、集会の普通決議で決めます(標準管理規約では出席組合員の議決権の過半数)。機械式駐車場の平面化や撤去がどちらに当たるかを一律に示した公的な資料は、確かめることができませんでした。減る台数や工事の規模で判断が分かれる可能性があるので、議案にする前に弁護士やマンション管理士に確かめ、自分のマンションの規約の決議要件も見ておく必要があります。 自治体の決まりも確かめておく必要があります。たとえば福岡市は、条例の施行規則に基づく要綱で、対象となる集合住宅が機械式駐車施設を撤去するには市長への申請と承諾が要るとし、集会で撤去を決議したことが分かる書類や駐車場の収支報告書を添えるよう定めています。所在地の市区町村に駐車場の台数の決まりを先に問い合わせておくと、総会のやり直しを避けやすくなります。撤去を急ぐ前に比べたいこと
平面化を進める側は、使用料収入の改善が見込めないまま高額の取替費用を積み立て続けるより、設備を減らして将来の支出を断つほうが組合全体の負担を軽くできると考えます。長期修繕計画ガイドラインのコメントが除却の検討に触れているのは、この考え方に沿うものです。 慎重な側は、停められる台数が減り、いま車を使う人やこれから車を持つ人の区画がなくなることを心配します。標準管理規約のコメントは外部への貸し出しを挙げ、長期修繕計画ガイドラインのコメントは値上げが難しい場合などを除却検討の条件にしています。撤去の前に料金の見直しや外部貸しで収入を立て直す道を探るべきだという意見にも、こうした根拠があります。 全部を撤去するか一部の装置だけ平面化するかでも、残る台数と費用は変わります。取替時期までの支出と使用料の見込みを駐車場単独の長期修繕計画で数字にしておけば、総会の議論は賛否どちらの側にとっても具体的になります。考えるための問い
- 自分のマンションの機械式駐車場は、設置から何年たち、長期修繕計画では取替がいつ、いくらで見込まれていますか。
- 駐車場使用料は管理費、修繕積立金、駐車場使用料会計のどこに入り、空き区画の分の減収は計画に反映されていますか。
- 空きが続いた場合、料金の見直し、外部への貸し出し、一部の平面化、全部の撤去のどれから検討するのがよいと考えますか。
出典
- 機械式駐車設備の適切な維持管理に関する指針(国土交通省・令和3年9月一部見直し)
- 機械式駐車設備の維持管理指針を初めて策定(国土交通省報道発表・2018年7月13日)
- 機械式立体駐車場の維持管理(国土交通省)
- 長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント(国土交通省・令和6年6月改定)
- マンションの修繕積立金に関するガイドライン(国土交通省・令和6年6月改定)
- マンション標準管理規約(単棟型)及び同コメント(国土交通省・令和7年10月改正)
- 建物の区分所有等に関する法律(e-Gov法令検索・令和8年4月1日施行の改正後の条文)
- 特定集合住宅における機械式駐車施設の撤去に関する要綱(福岡市・平成30年2月1日施行)