修繕と設備大規模修繕工事の発注方式と不適切コンサルタントへの備え
大規模修繕工事は、外壁や屋上防水などを直すために修繕積立金をまとめて使う工事です。発注の進め方には、設計と工事を別々の会社に頼む方式と、1社にまとめて任せる方式があり、どちらを選ぶかで、工事の中身や値段を管理組合がどこまで確かめられるかが変わります。2026年9月には、関東地方で設計コンサルタントと施工業者が受注先を前もって決めていたとして、公正取引委員会が排除措置命令を出しました。国土交通省の「マンション改修マニュアル」(令和8年3月改訂)と通知をもとに、発注方式の違い、施工会社の選び方、不適切なコンサルタントへの備えを並べます。理事や修繕委員になったとき、提案された進め方を判断する手がかりになります。
設計と工事を分ける「設計監理方式」
マニュアルは、専門家の関わり方を大きく二つに分けています。設計監理方式は、建築士のいる設計事務所など(建設会社や管理会社の場合もあります)に、建物の調査診断、修繕の設計、施工会社選びの手伝い、資金計画を頼み、工事が始まってからは工事監理(設計どおりに工事が行われているかの確認)を頼む方式です。工事そのものは、別に選んだ施工会社と契約します。 長所は、診断や設計をする専門家が施工会社と別なので、必要な工事を客観的に見極めたうえで、複数の施工会社を競わせて選べることです。マニュアルは、工事内容と工事費の透明さや、責任の所在の明確さの点で望ましい方式としています。心配点は、工事費とは別に調査、設計、監理の費用がかかることです。国土交通省の2026年9月の通知によると、近年の大規模修繕ではこの方式が広く採用されています。1社にまとめて任せる「責任施工方式」
責任施工方式(設計施工一括方式)は、設計や監理の部門を持つ施工会社1社に、調査診断から設計、資金計画、工事までを全部請け負わせる方式です。マニュアルは、請け負う側の例として建設会社とともに管理会社も挙げています。 長所は、設計監理方式のような専門家への費用がかからないことと、初めから工事のしやすさ(足場の組み方や作業の順番など)を考えた計画を立てられることです。マンションの事情をよく知る信頼できる施工会社がいる場合に選ばれることがある、とマニュアルは書いています。心配点は二つあります。設計と施工が一体になるため、工事内容と費用の内訳の関係が見えにくくなることと、技術の知識が施工会社の側に偏り、管理組合が本当に必要な工事かを判断しにくくなることです。そのためマニュアルは、この方式を選ぶなら検討結果の説明と項目ごとの費用内訳を出してもらうこと、最初から1社に決めず複数の候補から選ぶことも考えられるとしています。 このほか、発注者の補助役(コンストラクションマネージャー)が設計から工事までの各段階で費用や品質の管理を担う「CM方式」なども、マニュアルで紹介されています。施工会社を選ぶ流れ
設計監理方式で施工会社を選ぶ流れは、マニュアルではおおむね次のとおりです。- 見積りを頼む会社を集める。推薦と公募があり、公正さと透明さの点では公募サイトや業界紙での公募が望ましい
- 募集のときに、工事の範囲や予定工期、応募条件(建設業許可、同じ規模のマンションでの実績、財務状況など)を具体的に示す
- 参加する会社に設計図、仕様書、数量内訳書などの同じ資料を渡し、同じ条件で見積りを出してもらう
- 見積りの内容や単価を比べ、金額に大きな差があれば理由を確かめる。施工体制は聞き取りで確かめる
- 総会の決議が成立したら、工事請負契約を結ぶ。設計監理方式では、監理者とも工事監理の契約を結ぶ
国土交通省が注意を呼びかけたコンサルタントの問題
ただし、設計監理方式には弱点があります。管理組合の側に立つはずの設計コンサルタントが施工会社とつながっていると、競争の仕組みが見せかけになってしまいます。国土交通省は2017年1月27日の通知で、指摘されている例を挙げました。格安の料金でコンサルタント業務を引き受け、自社にバックマージン(受注の見返りに受け取る手数料)を払う施工会社が受注できるよう工作し、割高な工事費や過剰な工事に誘導する、というものです。候補5社のうち1社にだけ少ない工事量を伝えて見積りを安く見せた例や、調査や設計を実際にしていたのが施工会社の社員だった例も載っています。 この心配は、2026年9月28日に具体的な形をとりました。公正取引委員会が、関東地区(1都6県)のマンション大規模修繕工事について、設計コンサルタント2社と、それぞれと組んでいた施工業者(一方は36社、もう一方は19社)に、独占禁止法違反として排除措置命令を出したのです(課徴金納付命令も出ています)。公表によると、工事ごとに受注予定者を決め、受注予定者は設計コンサルタントと相談して見積価格を決め、ほかの業者は知らされた価格を管理組合に出すか見積りに参加しない、という取り決めでした。設計コンサルタントは設計予算などの情報を受注予定者に渡し、受注した業者は契約金額の一定割合を手数料としてコンサルタントに払っていたとされています。国土交通省は同じ日、関係団体を通じて管理組合に相談窓口などを知らせる通知を出しました。管理組合が取れる対策
国土交通省の通知とマニュアルからは、次のような手だてが読み取れます。- コンサルタントを料金の安さだけで選ばない。2017年の通知は、設計費は安くても工事とセットの契約が条件でかえって高くつく会社を外した例や、最高値と最安値の会社を除いて絞り込んだ例を紹介している
- 施工会社は公募など透明な形で集め、選ぶ手順を説明会などで組合員と前もって共有しておく
- 工事請負契約に、談合が認められたとき受注者が違約金を払う「談合違約金特約条項」を入れる。国土交通省は2025年6月26日の事務連絡で例文を示した(割合は空欄で、国の直轄工事では請負代金の10分の1)。それでも訴訟や不払いのおそれは残るため、弁護士など専門家に相談して決めるよう勧めている
- 中立の立場で助言するマンション管理士や、自治体の専門家派遣制度を使う。電話相談は、マンション管理センターと住まいるダイヤル(住宅リフォーム・紛争処理支援センター)が受け付けている
考えるための問い
- 前回の大規模修繕は設計監理方式と責任施工方式のどちらで行い、なぜその方式にしたのか、記録が残っていますか。
- コンサルタントや施工会社の候補をどう集め、誰がどんな基準で絞り込むのかを、組合員に前もって示していますか。
- 次の工事請負契約に談合違約金特約条項を入れるかどうか、理事会で話し合ったことがありますか。
出典
- マンション改修マニュアル(国土交通省・令和8年3月改訂)
- 設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(国土交通省・2017年1月27日)
- マンション大規模修繕工事の発注等に関する相談窓口の周知等について(国土交通省報道発表・2026年9月28日。2025年6月26日の談合違約金特約条項の事務連絡を含む)
- マンション大規模修繕工事の発注等に関する相談窓口の周知等について(国土交通省)
- 関東地区所在のマンションの管理組合が設計コンサル業者に委託して発注する大規模修繕工事の施工業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について(公正取引委員会・2026年9月28日)