防災大地震のあとマンションで在宅避難するための備え
大きな地震のあと、建物が無事でも、マンションの暮らしはすぐには元に戻りません。停電でエレベーターが止まり、水が上の階まで届かなくなり、排水管の点検が済むまでトイレを流せないこともあります。避難所の広さには限りがあるので、建物に倒壊の危険がなければ、自宅にとどまる「在宅避難」を選ぶ人が多くなります。在宅避難で何に困るのかを前もって知っておけば、家庭で用意するものも、管理組合で話し合っておくことも具体的になります。
在宅避難ができるのはどんなときか
東京都の防災ホームページにある「マンション防災」の資料は、建物に倒壊の危険がなく、被害が軽ければ在宅避難ができるとしています。耐震基準を満たしたマンションは、ひびや破損が出ることはあっても倒れることはめったにない一方、建ってから年数のたったマンションは耐震性に問題がないか確かめる必要がある、とも書いています。つまり在宅避難は、建物の安全が確かめられたうえで選べる方法です。暮らしに不安があれば避難所へ移ることも想定されています。 国の側も在宅避難を重く見ています。中央防災会議のワーキンググループが令和7年3月にまとめた南海トラフ巨大地震対策の報告書は、大きなマンションの住民が避難所に集まると、避難所の収容力の不足が一段と進むと指摘しています。そのうえで、在宅避難ができるように、建物本体の耐震性だけでなく内部の設備の地震対策を進めること、一定の規模のマンションで防災用の備蓄や資機材をそろえ、防災訓練を進めることを求めています。エレベーターはいつ動くのか
揺れを感じたり停電したりすると、エレベーターは止まります。2018年6月18日の大阪府北部の地震について国土交通省がまとめた資料によると、2府3県で保守されていた約12万2千台のうち約6万6千台が止まり、閉じ込めは339件起きました。救出までの時間は、通報から平均で約80分、最も長いもので約320分でした。止まったエレベーターは、専門の技術者が安全を確かめてから動かします。保守会社は閉じ込めの救出を最優先にし、何台もある建物では1棟につき1台を直してから次の建物へ回る「1ビル1台復旧」を原則にしています。高い階の住民は、しばらく階段を使う前提で考えておく必要があります。 揺れの始まりを感じると最寄りの階に止まって扉を開ける「地震時管制運転装置」は、建築基準法施行令の改正で、平成21年9月28日から設置が義務になりました。それより前に工事が始まったエレベーターには付いていないことがあります。法律上の違反にはなりませんが(既存不適格と呼びます)、国土交通省は持ち主に対策を勧めています。かごの中に水や簡易トイレを入れた「防災キャビネット」を置くことも勧めています。ただし中身の管理は、ふつうは保守会社の点検の対象外で、建物の所有者や管理者が受け持つことになっています。水とトイレが使えなくなる理由
水が止まる理由は断水だけではありません。内閣府のトイレの指針は、停電すると、特にマンションなどでは水がくみ上がらず、水洗トイレが使えなくなると書いています。 しかも、水が出れば流してよいとは限りません。東京都は、水道が来ていても排水管の修理が終わるまではトイレを使えない場合があるとし、上の階の人が排水管の傷みに気づかずに流すと、下の階で汚水があふれるおそれがあると注意しています。マンションの排水管は全戸でつながった共用の設備なので、一軒の判断では決められません。排水管の安全が確かめられるまでは、便器に袋をかぶせて使う携帯トイレが頼りになります。家庭の備蓄の目安
首相官邸の防災のページは、飲み水を1人1日3リットル、3日分を基本とし、大きな災害では1週間分が望ましいとしています。トイレを流すなどの生活用水は飲み水とは別に要るとして、ポリタンクにくんだ水や浴槽にためた水を挙げています。南海トラフの報告書は、食品と飲み水に加え、乾電池、携帯電話の充電器、カセットコンロ、簡易トイレなどを1週間分ほど家庭でそろえるよう求めています。 携帯トイレの数は、内閣府のトイレの指針にある「1日の平均的な使用回数は5回」で見積もれます。2人暮らしで1週間なら、2人×5回×7日で70回分です。大阪市の「防災力強化マンション」の認定基準は、携帯トイレか簡易トイレを1戸につき1日10個、7日分以上備えることを求めています。認定を受けるための高い水準ですが、量の感覚をつかむ手がかりになります。 高い階に住む人は、エレベーターが止まると水や食べ物を運び上げるのに苦労します。東京都は、管理組合の備蓄倉庫を1か所にまとめず、複数の階に置くよう勧めています。部屋の中でけがをしないことも在宅避難の前提で、消防庁の防災マニュアルは、寝室や出入口の近くに背の高い家具を置かないよう呼びかけています。管理組合としてできる備え
国土交通省のマンション標準管理規約(単棟型、令和7年10月17日改正版)は、第32条第十二号で、管理組合の業務に防災を含めています。同じ規約の解説(コメント)は、その中身として、防災マニュアルの作成と周知、防災訓練、防災情報の収集と周知、防災用の名簿づくり、防災物資の備蓄を挙げ、管理組合とは別の防災組織が中心になって進める形もありうるとしています。 東京都の資料は、前もって決めておくルールとして、建物の設備の確認、エレベーターの応急の復旧、排水管の確認の手順、住民への知らせ方を挙げています。揺れが収まって落ち着いたら、無事を知らせるカードを玄関先に出し、同じ階の高齢の方や乳幼児のいる家には声をかけることも勧めています。 自治体の制度を目標として使う方法もあります。東京都の「東京とどまるマンション」は、新耐震基準(昭和56年6月1日以降に建築確認を受けたもの)か、耐震診断などで基準に合うと確かめられたマンションが対象です。そのうえで、停電時にも給水とエレベーター1基以上を動かせる非常用電源を備えるか、防災マニュアルを作って訓練や3日分程度の飲み水と食料の備蓄などのうち一つに取り組めば登録できます。登録したマンションには、マンホールトイレ用の排水管などの設置費の補助があります。補助の期間や条件は年度ごとに変わるので、使うときは最新の案内を確かめる必要があります。 自分のマンションの規約で防災がどう扱われているかは、管理規約のコーナーで確かめてみてください。考えるための問い
- 地震のあと、排水管が使えるかを誰が確かめ、どうやって全戸に知らせるか、決まっているでしょうか。
- わが家には、人数×5回×7日分の携帯トイレと、1人1日3リットルの水がそろっているでしょうか。
- エレベーターが止まったとき、高い階に住む高齢の方へ水や物資を届ける手立てはあるでしょうか。
出典
- 南海トラフ巨大地震対策について(報告書)(中央防災会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ・2025年)
- 避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン(内閣府防災担当・2016年策定、2024年改定)
- エレベーターの地震対策の実施について(依頼)(国土交通省住宅局・2019年)
- マンション標準管理規約(単棟型)(国土交通省・2025年改正)
- 災害が起きる前にできること(首相官邸)
- マンション防災(東京都防災ホームページ)
- 東京とどまるマンション マンホールトイレ整備促進事業のお知らせ(東京都・2025年)
- 大阪市防災力強化マンション認定基準(大阪市・2024年改正)
- 消防庁 地震防災マニュアル(家具の配置)(総務省消防庁)